JPYCがKaia(LINE)対応開始。Polygon決済システムをKaiaに移植できるか技術検証してみた

2026年5月、日本円ステーブルコイン JPYC をめぐって大きな動きがありました。LINE系のブロックチェーン「Kaia」上での JPYC 発行が始まり、LINEアプリから使えるウォレット「Unifi」が JPYC に対応したのです。

私たちは普段、Polygon 上で JPYC を受け取る EC 決済システム「CIH GAS SYSTEM」を開発・運用しています。そこで今回は、開発者の視点から「この Kaia 対応で何が変わるのか」「私たちの Polygon 向け決済システムは Kaia でも動かせるのか」を、技術的に検証してみました。

何が起きたのか(事実の整理)

まず、今回の動きを時系列で整理します。

2026年5月15日、Kaia ブロックチェーン上での JPYC の発行が正式に始まりました。続いて5月22日、LINE NEXT が提供するウォレット「Unifi」が JPYC に正式対応しました。Unifi は LINE アカウントだけで使えるノンカストディアル型のウォレットで、追加アプリのインストールなしに、LINE から直接ステーブルコインを扱えるのが特徴です。

これまで JPYC が発行されていたのは Avalanche・Ethereum・Polygon の3チェーンでした。今回そこに Kaia が加わり、対応チェーンが4つに広がったことになります。

Kaia は、もともと LINE が開発した「Finschia(旧 LINE Blockchain)」と、韓国 Kakao 系の「Klaytn」が統合して生まれたブロックチェーンです。LINE と Kakao という巨大なメッセンジャー基盤を背景に持つため、潜在ユーザー数は非常に大きいと見られています。

なぜこれが決済にとって重要なのか

これまでステーブルコイン決済の一番のハードルは「ウォレットの準備」でした。一般のユーザーにとって、暗号資産ウォレットを新しくインストールし、シードフレーズを管理し、ガス代用のトークンを用意する、という一連の流れは決して簡単ではありません。

ところが Unifi は、LINE アカウントさえあれば使えます。日本国内で圧倒的に普及している LINE がウォレットの入り口になるということは、「ウォレットを持っていない人」が一気に「ウォレットを持っている人」になる可能性がある、ということです。

決済を提供する側から見れば、これは「支払い手段としての JPYC を選べるユーザーの母数が増える」ことを意味します。EC 事業者にとっては無視できない変化です。

技術検証:Polygon の決済システムは Kaia でも動くのか

ここからが本題です。私たちが Polygon 上で組んでいる決済システムを、Kaia にそのまま持っていけるのか。結論から言うと、技術的には十分に実現可能だと考えています。理由を3つの観点から説明します。

1. Kaia は EVM 互換である

Kaia は EVM(イーサリアム仮想マシン)互換のチェーンです。これは、Ethereum や Polygon で動くスマートコントラクトの仕組みが、基本的にそのまま通用するということを意味します。

私たちが Polygon で使っているトークン送金の処理ロジックは、Solidity で書かれた標準的な ERC-20 ベースのものです。EVM 互換である以上、コントラクトのアドレスやネットワーク設定(チェーンID、RPCエンドポイント)を Kaia 向けに差し替えれば、同じ設計思想で送金処理を構築できる見込みがあります。

2. ガスレス送金(EIP-3009)の考え方は移植できる

CIH GAS SYSTEM の肝は、購入者がガス代用トークンを持っていなくても送金できる「ガスレス送金」です。これは EIP-3009 という規格を使い、ガス代をシステム側が肩代わりする仕組みで実現しています。

この「署名はユーザーが行い、実際の送信(とガス代負担)は別の主体が行う」という考え方(メタトランザクション)は、特定のチェーンに依存するものではありません。EVM 互換チェーンであれば、同様のリレー構造を組むこと自体は可能です。ただし、JPYC の Kaia 版コントラクトが EIP-3009 に相当する機能(transferWithAuthorization など)をサポートしているかは、実装前に必ず確認すべきポイントになります。

3. テスト環境がすでに用意されている

開発者にとって心強いのは、検証環境がすでに整っていることです。JPYC は Kaia のテストネット「Kairos」向けに「JPYC Faucet」を提供しており、テスト用のトークンを入手して、残高照会・送金・受取といった基本機能を、実際の資金を使わずに確認できます。

つまり「いきなり本番でお金を動かす」必要がなく、まずテストネットで送金フローを一通り検証してから本番へ進める、という安全な開発手順が取れます。私たちが Polygon で実践してきた「壊さない・戻せる」開発スタイルとも相性が良い環境です。

残る課題と注意点

一方で、移植にあたって慎重に検討すべき点もあります。

ひとつは、JPYC の Kaia 版コントラクトの仕様確認です。同じ JPYC でも、チェーンごとにコントラクトの実装やサポートする関数が微妙に異なる可能性があります。ガスレス送金が成立するかは、この仕様次第です。

もうひとつは、ウォレット接続まわりです。Unifi が外部の dApp とどこまで接続できるのか(WalletConnect 対応の範囲など)は、EC サイトの決済画面に組み込むうえで重要になります。ここは今後の Unifi の仕様公開を見ながら、実機で確かめていく必要があります。

そして運用面では、チェーンが増えるほど「どのチェーンの JPYC を受け取るか」の管理が複雑になります。Polygon の JPYC と Kaia の JPYC は別物として扱われるため、売上集計や換金フローも、チェーンごとに整理しておく必要があります。

まとめ:マルチチェーン対応は「やれる」、あとは検証の積み重ね

今回の Kaia 対応は、JPYC が「一部の暗号資産に詳しい人のもの」から「LINE を使う一般の人のもの」へと広がる、大きな一歩だと感じています。

そして開発者の立場から見れば、Polygon で培ってきた決済システムの設計は、EVM 互換である Kaia にも応用できる可能性が高い、というのが今回の検証での手応えです。もちろん、コントラクト仕様の確認、ガスレス送金の成立条件、ウォレット接続の検証など、本番投入前に詰めるべき点は残っています。

私たちは引き続き、テストネットでの検証を進めながら、マルチチェーン時代の JPYC 決済に対応できる体制を整えていきます。進捗はこの開発ログで随時共有していきます。


※ 本記事は開発過程での技術的な検討内容を記録したものです。JPYC は JPYC 株式会社の登録商標です。本記事の内容は投資や特定サービスの利用を勧めるものではありません。実装にあたっては各チェーン・各サービスの最新の公式情報をご確認ください。

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